一時浮き立つようだった心は、もやもやとした雲に覆われていった。
 お忍びで街を案内してもらった日のことが夢のように思い出され、苦しくなる。
 あの日は一日中、ライズのエスコートを独占し、頼りがいのあるリードに甘えて、幸せに満ち足りていられたのに――。

(私だけのライズ様でいてほしかった……)

 そんな狭量な考えまで浮かんできて、ますます惨めに思えてしまう。このままでは大切な思い出が、悲しい色に染まってしまいそうだ。
 と、そのとき手前に立っていた貴族がライズに話しかけ、それに応えるべく彼がこちら側に顔を向けた。
 うしろめたい思いになったフランはぱっと視線を伏せ、足早に出口へと向かった。