シルビア姫に顔を上げるよう促す皇太后の表情は、いつもより華やいでいる。

「シルビアさん、堅苦しいのはそれくらいにして、楽にしてください。我が帝国へよくぞ来てくれました」
「こちらこそお声をおかけくださり、ありがとうございます。皇太后様におかれては相変わらず気高く、お美しくて……。そしてライズお兄様。お会いできて嬉しゅうございます」
「ああ。久しぶりだな、シルビア王女。以前、お会いしてからもう十年以上になるか?」

 ライズもまた親しげな口ぶりで、穏やかに声をかけた。

「はい……。お恥ずかしながら、近頃までわが国は内乱で長く混乱しておりましたため、聖王である父もわたくしも、国外に目を向ける余裕がなく……。せっかく築いてきた親交をおろそかにしてしまい、申し訳ありませんでした」
「自国のことで精一杯だったのは、我が国も同じだ。御身が無事でなによりだった。羽を伸ばすと思って、ゆっくりくつろいでくれ」

 すると皇太后は満足そうに頷きながら、両手の平をぽんとひとつ打ち合わせた。