カーネリア公爵は、皇帝への挨拶を済ませたあと、じろりと蔑むような視線をフランに向けてきた。自分の娘から、フランの噂はあらかた聞いているに違いない。
 帝国の重臣である彼らが来たからには、なにか重要な話があるのだろう。フランは退席しようと立ち上がりかけたが、ライズからそのままでいいと言われて、仕方なく腰を下ろす。
 ライズが、カーネリア公爵に発言を求めた。

「挨拶はいい。カーネリア公爵、用件はなんだ?」

 公爵は狐のような目を油断なく光らせながら、胸に手を当てて言った。

「この度の式典での騒ぎ、大変遺憾に思います。帝国の士気を高める伝統の場を汚す行為、誠に許しがたく……黙ってはいられず、こうして駆けつけた次第です」
「杯を運んだ侍女については、牢に入れ、調べを進めている」

 ライズが頬杖をついて応じる横で、フランも彼らの話に耳を傾けた。ライズも臣下の者たちも、すべてにおいて行動が迅速だ。ただただ感心していると、公爵は語気を強めた。

「あの侍女は、おそらくは雇われの身でございましょう。指示した者を見つけ出すことが重要です。それも証拠を隠滅される前に。……そこで我々が早急に動きました結果、実は痕跡と思われる物証を発見いたしました」