「かえってご心配をおかけし、申し訳ありません。あの杯は――やはり毒だったのですね」

 すでにある程度、事情を確認してから来たであろうクリムトが頷いた。

「陛下は毒に耐性をつけるため、普段から少しずつお取りになっておられますが、今回の毒をもしお飲みになっていたら、無事ではすまなかったでしょう」

 暗殺防止のための対策だというが、フランはゾッとした。
 皇帝という権威の大きさに比例する、危険と隣り合わせの立場。その肩にかかる重圧と宿命を思い、心が苦しくなる。

「いずれにしても今回はおまえに命を救われたようだ」

 ライズは小さく微笑んで、フランに穏やかな視線を投げた。

「そんなに心配そうな顔をしなくてもいい。……おまえは本当に可愛いな」

(えっ……可愛い……? 陛下が私のことを……?)

 優しげな瞳を惚けたように見上げていると、側近がゴホンと咳払いをして、気持ちの切り替えを促した。

「お取込み中、申し訳ありませんが――どうやら来客のようです」