数日をかけて大海の波に揺られ移動する船旅は、快適とはほど遠く。
 ひどい船酔いを経験し、ようやく陸地に降り立ったとき。

(……生きてたどり着けて、よかったわ……)

 固い地面の安心感に、祖国を離れた悲しみとか不安とか、淡い失恋の痛みとか――表にあった上澄みみたいな感情は、一瞬だけ頭の外に吹き飛ばされたように消えていた。

 それでも空恐ろしい気持ちはすぐに立ち戻ってきて落ち着かない。見知らぬ土地を警戒し、あたりを見回していると、

「シャムールの王女、フラン様でしょうか?」
「あっ! は、はい!」

 首を竦めながら、慌てて声の主のほうを向く。

「ようこそ、我がヴォルカノ帝国へ。城へお連れいたします」

 迎えに現れた使いの者が、馬車へと案内してくれた。乗車を促されたのは帝国の紋章である剣の模様が刻まれた、重厚な造りの馬車だ。
 一緒に船に積んできた金品などの貢ぎ物は、別の荷馬車で運んでいくらしい。

(私のことも、いきなり物として扱ったりはしないのね……)

 戦利品のような立場でも、一応は王女として見てくれているようだと少し安心する。だがそれも「今のところ」であって、油断するにはまだ早い……。