原動力のない環境でありながら、フランが獣化できる理由――それは、マナを自給自足しているからにほかならない。これはまさに奇跡といっても過言ではない事象らしい。
 だが、実際に変身を披露し、ライズの膝の上に乗せられて、クリムトに手放しで褒められても、当のフランはまったくピンときていなかった。初めて耳にすることばかりで、戸惑いが先に立つ。

「あの~、陛下……そしてクリムトさん……」

 尖った鼻先をぴすぴすと動かし、城の談話室で一緒に和んでいるふたりの男性に疑問を投げかけた。
 フランは獣の姿でいるときも、実は問題なく言葉を発することができる。今までは警戒心もあり、なるべく相手を驚かせないよう黙っていただけなのだ。だが彼らにはもうばれているので、隠す必要はない。

「私は、ただの先祖返りに過ぎないと思うのですが……」

 クリムトが、柔和な笑顔で即座に答える。

「獣人の血が隔世遺伝したとしても、マナがなければ変身はできません。しかし古文書には、獣人族の中でも一部の希少な種において、それを可能としたと記されています。自然と同調し、活力を生み出す聖なる存在――人はそれを聖なる獣、『聖獣』と呼んだと」