扉に手を伸ばし、声をかけようとして、固まってしまった。
 部屋の中にいる彼は、先客と話し中だ。そしてその相手は――。

「アルベール、どうかわたくしのことを守って……! あなたのことが好きなの。ずっと、好きだったの……」
「マーガレット様……」

 逞しい胸にすがって泣いているマーガレット。
 アルベールは悲痛な表情を浮かべながら、彼女の華奢な肩を抱いている。

(そんな……マーガレットも、彼のことを……? アルベール、あなたも……?)

 思わぬ衝撃に、目の前が真っ白になった。
 ぐわんぐわんと、頭の中で不快な音が鳴っている。まるでガラスの破片が刺さったかのように胸が痛くて、苦しい……。

 フランも飛び込んでいって叫びたかった。自分もアルベールのことが好きなのだと。
 けれど現実は――逃げるように、その場を離れていた。

 妹から恋人を奪うことなんて、できはしない。そもそもアルベールだって、呪われた先祖返りの自分なんかより、美しく完璧で誰からも愛されるマーガレットのほうを選ぶだろう。

 すぅっと波が引いていくような、不思議な感覚がした。

(きっと、これが私の運命。天の導きなのだわ……)

 アルベールへの想いが実らないのであれば、思い残すことはない。むしろ国のため、家族のために貢献できるのであれば、本望だ。

 それから、どうやって自分の部屋に戻ったのかも覚えていない。ただ布団に倒れ込み、ひと晩中泣き続けて――。

 翌日、フランは自分が帝国に捧げる貢ぎ物となることを、父王に進言した。