(陛下……?)

 青年はライズによく似ていた。けれど本人のようで少し違う。フランの知る人よりも青年のほうが大柄で骨太だ。いったい何者なのだろう。
 彼は、ピンク色の毛並みの小動物を膝の上に乗せていた。長くて節ばった指が、獣の首根っこのあたりを愛おしそうに撫でている。

『本当に可愛いな……おまえ、俺のところに来るか?』
『キュウン……』

 獣は媚びるように鳴いて、彼の手に自ら頬を擦り寄せた。
 毛の色や、瞳の色、それに耳が大きいといった特徴はフランによく似ているが、やっぱり別人だ。顔立ちも体つきも微妙に異なっている。
 けれどその仲睦まじい様子を見ていたら、モヤモヤしたものが胸にせり上がってきた。あの腕に抱かれているのが自分ではないということが、どうしてか悔しいような、切ないような――。
 青年が獣の脇の下に手を入れて、顔の前へと持ち上げた。

『そうだな……おまえの名前は、フランにしよう。一生大切にすると誓うよ、フラン――』

 熱っぽく囁いた彼は、ピンクの獣の鼻先を、己の側へと近づけていく。
 キスを、するつもりだろうか。その考えに至ったとき、思わず叫んだ。

(陛下! フランは、私です! 私はここにいます!)

 必死の声は届かない。それどころか体が引き戻されるようにうしろに引っ張られて、ふたりから離されていく――。