魔王の婚約者・ノエル

 魔王との婚約が決まった。魔王とは魔法の鏡で連絡がとれる。あらかじめ、魔法の鏡で魔王と対面できるのだ。なぎさは怖かった。
 父井川侯爵と一緒に魔王と対面することとなった。

 トーセアイランド、八雲神殿。
 なぎさは、父親と八雲神殿に入った。神官が案内してくれた。長いロマンスグレー、髭を生やした神々しい神官であった。切れ長の目に蒼(あお)い瞳をしていた。
 なぎさと父親は神殿の奥に案内された。そこはだっだぴろい空間だった。大きい丸い鏡があった。そこへ神官が案内した。
 なぎさは、父親と神官と鏡の前にたった。恐ろしかった。
 「安心してください。スサノオ様はお優しい方です」
 と、神官。
 なぎさは鏡の前にたった。
 「では鏡をつなげます」
 と、神官は言った。
 「みかがみよ、ねのくにの君のみかがみとつながりたまえ」
 ぼやっと人影が見えた。なぎさは、戦慄した。
 やがて鏡におかっぱのメイドさんの恰好をした女性が現れた。青い髪だ。なぎさはほっとした。しかし、なんで女性が。
 「おおおおおおおおお」
 と、おかっぱの女性は言った。
 「なんとお美しい」
 と、女性。
 え。
 「井川なぎさお嬢さまですね」
 と、女性。
 「は、はい」
 「黒い髪に黒い瞳、とてもお美しい」
 え。
 「わたくし、魔王陛下の家政婦長のエミリア・スワロウと申します」
 なんだ、そういうことか、となぎさは思った。
 「初めまして」
 と、なぎさ。
 「お初にお目にかかります」
 と、エミリア。
 「しかし、なんとお美しい、お目目と髪。そのような目と髪は魔族でもなかなかいません」
 なぎさは照れた。いままでそんなこと言われたことはなかった。
 「いやあ、こんなお美しい方が魔王陛下の婚約者とは」
 と、エミリア。
 「そんなことありません」
 と、なぎさ。
 「まあ、謙虚でいらっしゃる」
 「いえ、そんな」
 謙遜ではなかった。今まで、この髪と目の色で、いろいろ言われてきた。
 「それに鈴を転がすようなさわやかなお声」
 なぎさは赤くなった。
 「ああ、早くなぎさお嬢様とお会いしたい」
 「ええ、私もです」
 「お嬢さまもわたくしと」
 とエミリアはびっくりするようにいった。
 「あ、ええ」
 「おお、お嬢さまも私に好意を」
 「ええ」
 「エミリアとてもうれしゅうございます」
 エミリアは嬉しそうだった。
 エミリアの顔がアップになった。鏡に近づいているのだろう。エミリアはなぎさをまじまじと見た。
 なぎさは赤くなった。
 「お嬢さま、なんか初めてお会いした気がしませんね」
 「そ、そうでしょうか?」
 「はい」
 エミリアはにこにこしている。
 「お嬢さま、わたくし、スサノオ様のスポークスマンでして」
 と、エミリア。
 「はあ」
 「お嬢さまとだと何もかも話せる気分です」
 「はあ」