ファーストクラスの客席は、個室のような作りで多少のプライベートは考慮されている。手足も伸ばせるほどの広いシートは、フルフラットにもなるから仮眠も取りやすい。

それに今回は、看護師資格を持つ乗務員を配置してもらい、身重な心菜に出来るだけの配慮をお願いしてある。

体制は万全だ。

心菜は窓際の席で嬉しそうに外の景色を眺めている。

フライト時間は10時間、どうか何事も無いようにと祈るばかりだ。

「シートは広くて至れり尽くせりだけど、蓮さんが遠くてちょっと寂しい。」

飛び立って少し経った頃、心菜が不意にそんな事を言う。

隣同士の席だけど、一つずつの椅子がゆったり大きく作られているから確かに手を繋ぐのも若干遠い。

不安そうな顔の心菜に手を差し伸べながら、

「ずっと手を繋いでいれば少しは安心だろ。」
と伝える。

小さな華奢な手でぎゅっと握り返してきて、しばらくにぎにぎと弄ばれる。
昨夜の事情が脳裏をよぎり、さすがの俺も忍耐を強いられる羽目になった。

食事の時間は2回、後はひたすら寝て過ごす。
そんな俺の横で、心菜はヘッドフォンを付けて映画を楽しんでいる。

後半、少しお腹の張りを覚えた心菜は薬を飲み、横になって安静にする事になったが、それ以外は何事も無く無事に日本に到着する。