「蓮さん、これは何処に閉まって置く?」

先程から身重な体でちょこまかと、部屋の片付けに精を出す心菜が気が気では無い。

出来ればそのソファに寝そべり、一歩たりとも動かず居て欲しいのが今の俺の心情だ。

「これは俺が一緒に閉まうから、少し休もう。お腹が張ったらいけない。」
彼女の手から荷物を奪い、ソファに誘導して強引に座らせる。

「まだ始まったばかりだよ。
今日中には出来るだけまとめておきたいんだから、休んでる暇なんて無いよ。」

抗議の目を彼女から向けられ、苦笑いして誤魔化す。

「心菜は指示だけしてくれればいい。あまり動かれると心配で気が気じゃ無い。」
俺も負けずに抗議をして、彼女をソファに止める。

「1人じゃ大変だよ。無理はしないから一緒に片付けちゃおう。お洋服も整理したいし…。」

彼女には強くダメとは言えない俺の、心情を逆手に取って、可愛くおねだりするかのように見つめてくる。

思わず分かったと降参しそうになる自分を律して、すかさず彼女の手に飲み物を渡す。

最近の彼女のお気に入りは、このお手製のレモンスカッシュと、日本からお土産でもらった缶入りクッキーだ。

すかさず缶の蓋を開け、可愛い口に一枚近付ける。
すると彼女が条件反射のような仕草で、パクッと口を開けるから、愛しさが込み上げて俺もソファに座り込み一緒に寛いでしまう。

「このクッキーどこで買えるんだろう?日本に帰ったら1番に買いに行かなくちゃ。」

そう言って可愛く笑うから、俺も思わず缶から1枚取って口に運ぶ。

ほろほろと口の中で崩れる食感や、こっちには無いほのかな甘さが確かに美味い。

「蓮さんも最近甘いものよく食べるようになったよね。」
嬉しそうな目を向けられる。

「心菜が美味しそうに食べるから、気になって食べてるうちに俺もハマった。」
願わくば、全ての思考を共有したい。

彼女が好きな物はもちろん、苦手な物まで。

俺のドス黒い思惑なんかには気にも留めず、ニコニコと笑顔を振り撒きクッキーを頬張る。

「でも、あまり食べ過ぎると母乳の出が悪くなるんだって。洋菓子は特に詰まりやすくて、まだ和菓子の方がマシなんだって。」

日本から取り寄せたマタニティ雑誌の知識を披露してくるから、慌ててクッキー缶に蓋をする。

「このぐらいで辞めておこう。食べ過ぎは身体に禁物だ。」
急に閉じられた缶を睨み、ついでに俺も睨まれる。

「蓮さん、この頃お母さんみたい。」

「俺が律しなきゃ、心菜は永遠に食べ続けるだろ。」
ポンポンと彼女の頭に触れて髪を撫ぜる。

よし、と言うように立ち上がりまた、荷物作りに精を出す。

それを俺は苦笑いしながら煽り見て、ため息を一つ吐いて立ち上がる。

心菜を制するのは難しい難問だ。