詩伊に会いたいと思えば、前に進む足が速くなる。




弥斗(やと)さんっ!」


「うわっ!?」




曲がり角を曲がると、正面から何かが飛び込んできて驚く。

その声を聞いて咄嗟(とっさ)に抱き留めはしたが、ここにいることが信じられなくて何度か(まばた)きをした。

花柄のワンピースの上に、コートを着ている女。




「詩伊…?」


「はいっ。お久しぶりです!」




俺に抱き着いたまま、詩伊は顔を上げてにっこり笑う。

久しぶりの詩伊の笑顔、分厚いレンズ越しでも可愛すぎて心が浄化されるが。




「どうしてここに…」


「弁護士さんには行っちゃダメって言われたんですけど、どうしても早く弥斗さんに会いたくて…それに今日は、寒いじゃないですか」


「…」




(いと)おしくて胸が締め付けられるって、こういう感覚か。

…悪くない。