Side:藤間(ふじま)弥斗(やと)




「悪い(おこな)いはせず、健康に生きていくように。ご苦労だった」


「はい」




ボッサボサの髪、前なんてろくに見えやしない分厚いメガネ、白いマスク。

鬱陶(うっとう)しいことこの上ないが、詩伊(しい)と隠れず生きていくためだと思えば我慢できる。


ムショから出た先には誰もいない。

冷たい風に指先を冷やされて、上着のポケットに手を突っ込んだ。




「はぁ…さみ」




さっさと詩伊の家に行って温まるか…。


離れている間も、弁護士を通じて詩伊がせっせと手紙を送ってきたから、ちゃんと会える今日が待ち遠しくて(たま)らなかった。

俺と詩伊は詐欺師と被害者の関係だから、差出人の名前はなかったけど。

日常を(つづ)るぽやぽやしたあの文章は、詩伊を感じるのに充分だった。