その人は、空から降ってきた。

ダンッとアスファルトに着地して、顔を上げる。

深く被ったフードから(のぞ)いた口元は、口角がほんの少し下がっていて、顎のラインがシャープで。


犯罪者さんの、匂いがした。




「…可愛い女って、いるんだな」


「え…?」




こっちに顔を向けた目の前の人は、低い声で、独り言を言うように呟く。

高い背。がっしりした体格。平らな胸。

その人は正真正銘(しょうしんしょうめい)、“男の人”だった。




「お前にときめかれるなら、悪くないんだが」




大きな歩幅で近づいてきた男の人は、私の二の腕を掴む。

フードの中に見えたのは、長いまつ毛に(ふち)どられた切れ長の瞳だった。




「少し付き合ってもらうぞ。…ふ、ちょっとしたデートだ。手荒な真似はしない」


「!」




涼し()な表情が微笑(ほほえ)みに変わった瞬間、わたしの胸は犯罪者さんに、ドキッとさせられていた。