「あの、佐倉さん。思い出せていない私は本当に失礼だと思うんですが、そのいつお会いしてるか教えていただけたりはしないものでしょうか……?」

「却下」

「え、なんでですか……?」

「一方的に振ってきた奴に教える義理はない」

「意地悪、です」

「忘れてしまった、なずなが、悪い」




すっと、表情を変えた。その顔はまた私をからかうそれ。器用にお面をつけるみたいに佐倉さんは表情を隠す。




「……れ、ない……で」

「え、なんて言いました?」




けれどぽつりと小さく音を落とした佐倉さん。かすかなその音を私はなんとも残念なことに聞き漏らしてしまった。




「なんでもない。もっと早く来なかった、俺が悪いんだ」

「なにがですか……?なんの話ですか……?」

「本当になんでもないんだ。それより最後にひとつだけ俺から質問してもいいか?」




“最後”その言葉を選んだ佐倉さん。私と佐倉さんが会うのはこれできっと“最後”。

目まぐるしい1週間だったなと思う。失恋して、佐倉さんに会って、好きだと言ってもらって、まさかSAKURAの社長が佐倉さんで、佐倉さんを私なんかが振ってしまって。


でも、これで終わり。




「なんで、しょうか……?私にお答えできることでしたら、」




するりと佐倉さんはこちらに手を伸ばすと私が置いた香水の箱を手にした。そしてそれを見つめながら、少し震える声音で私に“最後”の質問をした。