森坂店長にこんなに思ってもらえる彼女さんは、本当にとても素敵な女性なんだろうな。私なんか到底及ばないくらい。



と、



視線の先、店長の後ろにいた佐倉さんがこちらを見つめていた。見られていたことが急に恥ずかしくなって慌ててパッと視線を逸らす。




「て、店長、じゃあ帰りましょうか」

「あ、そうだな!じゃあ、佐倉さんありがとうございました!」

「こちらこそ御来店有難う御座いました。またの御来店、お待ちしております」




にっこり。そんな効果音が似合う営業スマイルを貼りつけてゆっくりと頭を下げた佐倉さん。

森坂店長も会釈をすると「帰るか」と呟き、私を追い越して出口へ向かった。


お辞儀をしている佐倉さんのつむじを見て、声をかけることはせず、私は店長の背中を追う。


香水はまた今度、ひとりで来て返そう。そう思った。佐倉さんに背を向け一歩踏み出す。


と、次の一歩はある人物によって阻止された。




「え、」




無惨にも右手が、私より高い体温に捕まってその場に留まることとなる。前を歩くのは森坂店長。そうなると後ろで私の右手を引ける人物は、






「なずな」






ーー佐倉さんしか、いない。