まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 強烈な焦りの中、止めようと限界まで手を伸ばしたが、あと半歩、兵士の腕まで届かない。

「クララ、左によけろ!」

 その声に反射的に反応して攻撃をかわしたクララだったが、体勢を崩して川に落ちてしまった。濁流に飲まれてもがく姿があっという間に遠ざかる。

「クララっ!」

 川に飛び込もうとしたアドルディオンを兵士が担ぎ上げた。

「放せ、クララを助けなければ!」

「悪魔は退治しました。殿下は拠点にお戻りを。公爵様が心配しておられます」

 力づくで町の宿屋まで連れ帰られたアドルディオンは、無事を喜ぶハイゼン公爵に怒りをぶつけた。

「暴れる馬から私を助けてくれたのはクララだ。動けるようになるまで三日間、世話もしてくれた。命の恩人に刃を向けるとは許しがたい所業。あの兵士を拘束しろ。宿屋の部屋から一歩も出すな。残りの者はただちにクララの救出に向かわせろ」

「殿下、落ち着いてください」

「平静でいられるものか。私も村に戻る」

「それはなりません」

 一昨日の昼頃、中間報告を求めて国王の使者が来て、別の宿屋で待たせているそうだ。

 アドルディオンがここから一番遠い村まで出かけていることにして時間を稼いでいたが、『いくらなんでも遅いのでは』と少し前に文句を言われたらしい。

「お急ぎ、使者殿にお会いくださいませ。なにかあったのかと不審に思われます」