まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 キョトンとしていたクララだったが、やっと求婚されたのだと理解したようで頬が赤く色づいた。

「私がアドのお嫁さんに……」

「なってくれる?」

 クララが照れくさそうに目を逸らして頷いた。

 これが初恋なのだろうか。平気で太ももをさらして洗濯していた昨日より、ほんの少し大人になった顔をしていた。

(約束の口づけをしたいところだが、クララにはまだ早いな。次に会う時まで我慢しよう)

 手のひらにマメができている小さな手をぎゅっと強く握った、その時――。

「殿下!」

 叫ぶような呼びかけに驚いて振り向くと、前方の森から男がひとり飛び出してきた。

 視察隊の二十代の護衛兵で、森の中までアドルディオンを探していたのだろう。

(すぐに会えてよかった)

 拠点にしている町の宿屋まで馬を引いて歩かずにすむと安堵したが、その直後にギョッとした。

 全速力で駆けてくる兵士の服は泥にまみれ、髪はボサボサだ。逞しく健康そうな顔をしていた三日前とは違い、やつれて目は血走っていた。

 まるで不眠不休で戦をしていたかのような形相である。

(俺を捜しているとは思っていたが、まさか睡眠も食事も取らずに? ハイゼン公爵の命令か?)

 気の毒なことをしたと反省し、労わねばと口を開く。

「捜索に感謝する。心配させてすまなかった。この通り、私は無事に――」

「殿下、お守りいたします!」