そう思うほどにクララに惹かれている自分に驚いた。
翌日、朝早くに出発する。
今は雨が上がっているが風は強く、日の出までは時化ていたそうだ。
船は漁に出られなかったため、いつもは仕事に出かけているクララと母親が家にいた。
「お世話になりました」
玄関口で頭を下げると、母親が優しく微笑んだ。
まだ二十六歳と若く、クララと顔立ちがよく似ている美人で、苦労を感じさせない明るい性格をしている。
「よくなってよかったわ。気をつけて帰ってね」
クララは見送りに出てこない。
昨夜は別れを受け止めてくれたように見えたが、いざとなると寂しさに耐えきれず、部屋の奥で泣いているのかと胸が痛んだ。
けれども「待って!」と元気な声がして、フードつきの黒いマントを羽織ったクララが走り出てきた。
「その恰好は?」
「途中まで送るわ。アドが迷子になったら困るもの」
「いや、迷わないよ。雨になりそうだからクララは家にいた方がいい」
またすぐ雨が降り出しそうな曇り空で、なにより一緒にいる時に視察隊に遭遇すればクララに対して身分を隠すのに困りそうだ。
「雨が降ってもいいようにマントを着ているのよ。絶対についていくから」
じっと見上げてくる丸い目に、もう少し一緒にいたいという気持ちがにじんでいた。
「仕方ないな」



