まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「ほら、ザーザー降ってる。明日もきっと雨よ。晴れるまでうちにいた方がいいわ」

「雨でも行く。行かなければならないんだ。ごめん」

 貧しい家で自分より五つも年下の少女に世話になり申し訳なさを感じていたが、アドルディオンの滞在をクララは嬉しく思っていたようだ。

 つぶらな瞳がたちまち潤み、別離の寂しさに涙するほど懐かれていたらしい。

 焦ったアドルディオンはなんとか泣きやませようとして、木綿のシャツの袖口からカフスボタンを外した。

 アクアマリンの透き通った水色の石をはめ込んだ銀色のカフスボタンだ。

 石は小粒で宝石の価値はさほどではなく、入手経路も思い出せない。

 宝石商が来城すると選ぶのが面倒なので、しばしば見せられたジュエリーのすべてを買い取っていた。このカフスボタンもきっとそうやって手に入れたのだろう。

 旅立つ前、持っている中で庶民風の質素なものを選んだつもりだったのだが、付けること自体が裕福さを表しているのだと、この村に来てやっと気づいたところだ。

 もっと早く外すべきだった両袖のカフスボタンふたつを、クララの手に握らせた。

「これをクララに。売ればいくらか金になる」

 視察の資金は十分だが財布は臣下に預けているので、お礼に渡せるものはこれしかない。

「世話になった対価としては安すぎるよな。ごめん」