まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

貧しくて学校に通えず子供の頃から漁港や農園で働いてきたが、その苦労は母に比べれば小さいと感じている。

つらくても弱音を吐かず、いつも明るくパトリシアを育ててくれた母への感謝と愛情は深い。

村を出た時を思い出して決意を新たにし、強気な視線を前方に向けたら、ロベルトをさらに怒らせてしまう。

「なんだ、その反抗的な目は。気品も教養も、愛嬌さえないのか。いくら外見を取り繕ってもすぐにボロが出る。お前は貴族令嬢にはなれない」

伯爵邸に移り住んでからというもの、厳しい淑女教育を受け、寝る間も惜しんで勉強した。

学問だけでなく言葉遣いに種々のマナーを頭と体に叩き込み、刺繍にレース編み、ピアノ演奏に芸術鑑賞の仕方など、普通の貴族令嬢なら幼少期から徐々に身に着ける知識をたった一年で習得しなければならなかったのだ。

血のにじむような努力である。

それがすべて無駄だったと言われた気がしてうつむいたら、ソファからたしなめるように手を鳴らす音がした。

「ロベルトは黙りなさい。パトリシアから自信を奪うな」

意外にも助け船を出してくれた父親が歩み寄り、娘の肩に手を置く。

「付け焼刃ではあるが、ひと通りの礼儀作法を身に着けたのだから問題ない。社交に不慣れでも不自然に思われないよう噂も流してある」

〝深窓の令嬢〟――それが伯爵の作った噂だという。