まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「そうなの? この前、学校に行っている子にバカにされたから嬉しい。勉強を教えてくれてありがとう」

 満面の笑みを向けられてアドルディオンの胸が高鳴る。感謝の言葉を初めて聞いたかのような気分にさせられた。

(臣下や貴族たちからの感謝とはまったく違う。少しもお世辞が混ざっていないからか。心から感謝されるとこちらも嬉しいものなのだな。クララの言葉は純粋で気持ちがいい。もっとクララと話したいけど……)

「ねぇ、毎日勉強を教えてくれる?」

 期待を込めた目に見つめられて言葉に詰まる。

 ここで世話になり明日で三日になる。

 村医者の言葉通りかなり動けるようになったので、明日の朝に出発しようと考えていた。

 おそらく視察隊が血眼になって自分を探しているはずだ。無事な姿を早く見せなければならない。

 頷かないアドルディオンを見て、クララは首を傾げている。

 三日という言葉を忘れてしまったのか、アドルディオンがいつまでもここにいるような感覚になっているのかもしれない。

「明日の朝にここを発つ。泊めてくれてありがとう」

「そんな……。もう少し治ってからの方がいいんじゃない?」

「いや、早く帰らないといけない」

「でも、でも、雨が降りだしたわ」

 悲しそうな顔をして、クララが引き留める理由を探す。