まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 クララが農園主から聞いた話によると、厳しい環境で育つブドウは甘く力強い味がするらしい。

「そういう理由なのか。面白いな」

「農作業がしづらいというのは、そうね。あそこに立てばわかるけど、ここから見るよりずっと急よ。昔、風で飛ばされた帽子を追いかけて、崖から落ちて亡くなった人がいたんですって」

 横からはジャブジャブと洗濯の音が聞こえる。

(そんな危険な場所で、九歳の君を働かせたくない)

 眉根を寄せて横に振り向いたアドルディオンは目を見開いた。

 クララがタライに入り、石鹸をつけた洗濯物を裸足で踏んで洗っている。

 それはいいのだが、エプロンドレスの裾をまくり上げて腰の辺りで留めているため、太ももの上の方まで肌があらわになっていた。

 日焼けして健康的な肌色をしているが、真綿のような太ももを見れば色白なのがわかる。

 生まれながらのものなのか、右の太ももの内側にはリンゴの花弁のような形のピンク色の痣があった。

 それが印象的に目に飛び込んできて、心臓が大きく波打った。

「それでね、農園主のおじさんから、たとえ大事な剪定鋏でも、落としたら自分で拾わないようにって言われているの。命より大事なものはないからって。おじさんも奥さんも、すごく優しいのよ。大好き」

「へ、へぇ。子供のクララに一応の配慮はしてくれるのか」