まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 王城の使用人の中でコックは階級が低い。料理は下働きの者たちの肉体労働で楽しむものではないと、自然と見下していたことに気づいた。

(帰還したら王城の料理人たちを労いたい。日々の食事に感謝し、その都度、味の感想を言うよう努めよう)

 庶民に寄り添った政治をと大義を掲げるより先に、身近な使用人たちの気持ちを汲まなければと自分を戒めた。

 食事が終わると洗濯をするというので一緒に外に出た。

 この辺りは畑の中に民家がポツポツと建っており、隣の家まではかなり距離がある。

 空は青く、畑には緑が広がり、左手に海が少しだけ見えた。右奥には海に面した崖が見え、急斜面に緑が広がっている。

 そこはワイン用のブドウ農園で、ワインは村の特産品になっているそうだ。

 クララと母親は早朝からの漁港での仕事を終えたら、ブドウ農園で働く。

 洗濯をすませたら、今日もクララは農園に出かけるのだろう。

 働きづめなのに、ふたりとも明るく笑っているのが救いに感じられた。

 アドルディオンは壊れた木箱をひっくり返して腰かけた。

 そのすぐそばではクララが、井戸から汲み上げた水を木製の大きなタライに入れている。

「アド、なにを見ているの?」

「ブドウ農園。なぜ急斜面に畑を作ったのだろう。作業がしづらいのに。塩分を含んだ海風のせいで実りも悪そうだ」

「あそこだから美味しいブドウが育つのよ」