まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 クララだけ先に帰宅するよう言われたそうで、それはアドルディオンのためだった。

「お腹空いたでしょ。すぐ朝食を作るわ。ねぇ、これ見て」

 得意げなクララが持ち帰ったバケツには、小魚や貝がたくさん入っていた。

 売り物にならない種類や小さなサイズのものはただでもらえるそうで、貧しくてもなにかしら食べ物はあるらしい。

 クララが台所に立って三十分ほどすると、いい香りが家中に広がる。

 木の板に釘で脚をつけただけのテーブルに湯気立つ魚介のスープが出され、ふかしたジャガイモと丸ごとのリンゴも添えられた。

「ありがとう」

 心からお礼を言い、クララと向かい合って食事をする。

「これは……驚くほど美味しい」

 お世辞ではない。新鮮な小魚を骨まですり潰して作るスープはこの村の伝統料理で、濃厚な旨味が口内に広がった。

「まだ子供なのにクララはなんでもできるんだな。感心する。忙しい母親に代わって家事をしなければならないのは可哀想だけど」

 彼女の置かれた境遇を憐れんでいると、リンゴにかぶりつこうとしていたクララが目を瞬かせた。

「どうして可哀想なの? 私、料理をするのが好き。楽しいし、美味しいって言ってもらえるとすごく嬉しいの」

 なぜ同情されるのか本気で理解できない様子に、アドルディオンはハッとさせられた。

(俺は傲慢な考え方をしていたようだ)