まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 日傘など差したことはないのだろう。鼻の付け根にはそばかすがあった。

 しかしクリッとした丸い目や、さくらんぼのような唇が可愛らしく、なによりその優しく純真な性格に心惹かれた。

(助けるのが当たり前か。きれいな心だ。危険を顧みず俺を助けてくれたのも、そういう気持ちからなのだろう。暴れ馬に飛び乗る勇気と、初対面で年上の俺に臆せず意見する真っすぐさ。この子のような少女は俺の周囲にいない。貴族の娘は皆、同じように上品で、口を開けばお世辞ばかりだ)

 たとえ目の前の花が赤くてもアドルディオンが青だと言えば、貴族令嬢たちはそれに倣うだろう。

 彼女たちと話す時はいつも気に入られたいという思いが透けて見えるようでうんざりしていた。

(平民の娘は皆、このようなのか? いや、まさか全員が好んでただ働きをしないだろう。この子が特別に清らかなんだ)

「君の名は?」

「クララよ。九歳になったわ」

「俺のことはアドと呼んでくれ。悪いけど、歩けるようになるまでここに泊まらせてほしい」

 痛みに顔をしかめながらもなんとか上体を起こし、頭を下げた。

 父以外の者に深々とお辞儀したのも初めてだ。

 すると小さな手で背中を支えてくれたクララが、「任せて」と元気な声で張りきった。

 クララの家でふた晩を過ごすと、体の痛みは大分引いてきた。