まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「うちには納屋がないから、馬はお隣で預かってもらってる。鞍を外したら、血が出ていたのよ。留め具が壊れて刺さったんだわ。可哀想に。乗る前にちゃんと馬具を確かめないとダメでしょ。後で馬に謝って」

 年下の平民の少女に叱責されて驚いた。

 王太子として幼少期からかしずかれてきたので、『ダメでしょ』などと直接的な言い方で注意されたのは初めてだ。

 しかし納得できたため、少しも腹を立てずに感謝する。

「怪我には気づかなかった。君の言う通り、悪いのは俺だ。後で馬に謝ろう」

「うん、それがいいわ」

「教えてくれてありがとう。助けてくれたことにも感謝する。君は随分と馬の扱いに長けているんだな」

「長ける? 上手に馬に乗れるってこと? たまに馬貸しのおじさんのお手伝いをしているの。体を洗ってあげたり、敷き藁を取り替えたり、餌と水もあげているわ。おじさん、腰が痛くて馬の世話が大変だから」

「駄賃をもらえるのか?」

「お金じゃないの。困っている人がいれば助けるのは当り前よ。それにね、私はやりたいの。馬は賢いからお世話すると顔を覚えてくれる。鼻をすり寄せてきて可愛いのよ」

 嬉しそうにフフッと笑っている少女を改めてよく見た。

 緩やかにウェーブがついた髪は顎の長さに短く切られ、水色のエプロンドレスは色あせて破れ目を縫った跡が目立つ。