まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 そんなことで止まるものかと思ったが、馬のスピードが急に落ちた。

 飛ぶように流れていた景色が木の種類がわかるほどになる。

 しかしホッとするのは早かった。最後の抵抗とばかりに馬が大きく後ろ脚を蹴り上げて、アドルディオンの体が浮かんだ。

「あっ!」

 少女が振り向いて懸命に手を伸ばすも届かず、落馬したアドルディオンは草地に強く叩きつけられた。

 目を覚ますと粗末なベッドに寝かされていた。

 壁紙のない木目がむき出しの内壁から隙間風の音がする。

 天井につるされたランプの火は弱く、質素な家の中をぼんやりと黄色く照らしていた。

 落馬してから数時間経ち、夜になったようだ。

(ここはどこだ?)

 上体を起こそうとして痛みに呻いたら、部屋の奥から少女が慌てたように駆けつけ顔を覗き込まれた。

「急に起きちゃダメ。目が覚めてもあまり動かないようにって、お医者様が言ってたわ」

 その説明によると、落馬して気を失ったアドルディオンは村男の手を借りて少女の家に運ばれたらしい。

 少女は母親とふたり暮らしをしており、母親が村医者を呼んでくれた。

 診断は全身打撲。幸いにも骨折はしていないそうだが、まともに歩けるようになるには三日ほどかかるだろうと言われたそうだ。

(三日か)

 視察隊に自分の居場所を伝えて迎えにこさせたいが、秘密裏での任務のため誰にも使いを頼めない。