まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(俺はここで死ぬのか? 父上の後を継いでこの国の平和を守るのが使命なのに)

 ここで死んでは今までなんのために猛勉強してきたのかわからない。

 自分の他に王位を継ぐ資格のある嫡子はなく、王家の血筋が途絶える予感に青ざめた。

(この馬を選ばなければよかった)

 悔しさに顔をしかめたら、突然なにかがドサッと鞍の後ろに落ちてきた。

 猿でも木から降ってきたのかと驚いたが、アドルディオンの脇の下を通り、後ろから前へと伸ばされた手は人間の子供のものだ。

「手綱に届かない。ちょっと屈んでくれる?」

 その声は高くて可愛らしく、どうやら少女が乗っているようだ。

 驚きと混乱でうまく状況を理解できないが、言われた通りに馬上で上体を伏せる。

 すると少女がアドルディオンの背を乗り越えて前に移動した。暴れ馬の背で巧みにバランスを取れるとは身軽なものだ。

 後ろ姿しか見えないが華奢で小さく、十歳に満たない年頃ではないだろうか。

 助けようとしてくれているのはわかるが、年端もいかない少女になにができるのかと眉を寄せた。

(なぜ飛び乗ってきた。この子まで命を落とすぞ)

 もろともに振り落とされる予感がして焦る中、少女が垂れ下がる手綱を手繰り寄せ、馬を操ろうとする。

「オーラ、オーラ。いい子ね。どこか怪我しているの? 後で私が見てあげる。だから止まって。お願い」