「おそらく殿下は民の暮らしというものを勘違いなさっておられます。王家の管轄領内が特別に潤っているのであって、一般の貴族領に住まう者たちはこれが普通でございます」
(つぎはぎだらけの服を着ているのが、普通なのか……?)
若干十四歳のアドルディオンはまだ公爵に政務を教わる立場である。
村民の収益を領主が不当に搾取しているのではという懸念を否定され、疑問を頭の片隅に置いたまま、港を視察してから次の村へ移動することになった。
この村の東には広大な森が広がり、その手前の道を少し戻ってから内陸の方に進むと隣の村に入る。
周囲は畑が途切れ、道の両側には木立が生い茂っていた。
ここよりさらに木々の密度の濃い森が前方に見えてきたその時、急に騎乗している黒毛の馬がいなないた。その直後に走り出し、アドルディオンを振り落とそうとして後ろ脚を蹴り上げる。
「どうしたんだ、落ち着け!」
必死に馬を止めようとするも、制御されまいとするかのように首を激しく振るので手綱が手から離れてしまった。
馬のたてがみを両手で掴んで耐えているものの、今にも振り落とされてしまいそうだ。
木立の間を暴走する黒馬に従者たちの馬はついて来られない。
護衛や公爵の慌てる声はもう後ろに聞こえず、かなり引き離されてもスピードは落ちなかった。
アドルディオンは生まれて初めて命の危機を感じた。
(つぎはぎだらけの服を着ているのが、普通なのか……?)
若干十四歳のアドルディオンはまだ公爵に政務を教わる立場である。
村民の収益を領主が不当に搾取しているのではという懸念を否定され、疑問を頭の片隅に置いたまま、港を視察してから次の村へ移動することになった。
この村の東には広大な森が広がり、その手前の道を少し戻ってから内陸の方に進むと隣の村に入る。
周囲は畑が途切れ、道の両側には木立が生い茂っていた。
ここよりさらに木々の密度の濃い森が前方に見えてきたその時、急に騎乗している黒毛の馬がいなないた。その直後に走り出し、アドルディオンを振り落とそうとして後ろ脚を蹴り上げる。
「どうしたんだ、落ち着け!」
必死に馬を止めようとするも、制御されまいとするかのように首を激しく振るので手綱が手から離れてしまった。
馬のたてがみを両手で掴んで耐えているものの、今にも振り落とされてしまいそうだ。
木立の間を暴走する黒馬に従者たちの馬はついて来られない。
護衛や公爵の慌てる声はもう後ろに聞こえず、かなり引き離されてもスピードは落ちなかった。
アドルディオンは生まれて初めて命の危機を感じた。



