まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 四十半ばでも肌艶がよく、白髪も少ないため若く見えた。頬骨の張った四角い顔に尖った鼻、力のある大きな目と厚めの唇が印象的だ。

 アドルディオンが幼い頃から教育係を務め、少しずつ政務を行うようになった今は側近の役目をしている。

 秘密裏での調査中だというのに、声をひそめずに『視察』や『殿下』などと言うためアドルディオンは周囲を警戒した。

 すると公爵が声をあげて笑う。

「近くに誰もおりません。聞かれていたとしても町から遠い村ですから、領主の耳まで届きますまい。殿下は気を張りすぎでは。のどかな景色をそんなに険しい目でご覧になられては、かえって怪しまれますぞ」

 そうかもしれないと思ったため、意識して口角を上げた。政務を補佐してくれる公爵を信頼しているからこそ、素直に助言に従ったのだ。

「公爵、先に見た村よりここは貧しいようだ。村長にそれとなく話を聞きたい」

「いえいえ、そこまでせずとも報告書は書けます。この視察で確認せねばならない最重要事項は謀反の可能性ですから。領主の住まう町で、そのような噂も気配もございませんでした。もう視察は終わったようなものです。さっさと残りの村をすませて王都に戻りましょう」

「しかし――」