まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「あ、あの、アカゲラの雛をどうしても巣に戻したかったのです。危ないと思われるかもしれませんが、私は木登りに慣れて――い、いえ、その、子供の頃に少しだけやったことがあるんです。父の領地の田舎は自然豊かでしたので、ええと、その」

 不適切な行動だという自覚は十分にあるようで、目を合わせることもできずに首をすくめている。

 厳しい叱責を恐れているようだが、アドルディオンの方はそれどころではなかった。

 大きく鼓動が跳ね、胸の中に温かで甘く、しかし悲しみと痛みを伴う記憶が蘇る。

(クララもこんな風に木から飛び降りてきたんだ。アカゲラの雛ではなく、見ず知らずの俺を助けるために)

 あれは九年ほど前のこと――。


* * *


 十四歳になったアドルディオンはこの夏、父である国王からケドラー辺境伯領の視察を命じられた。

 すべての貴族が王家の忠臣ではない。過去には政権をひっくり返そうとする内戦が何度もあり、多くの尊い命が失われた歴史がある。

 現国王の御代になってからは平和が続いているものの、反王派と呼ばれる貴族が十数家、残っており、どう懐柔していくかが課題であった。

 ケドラー辺境伯もそのひとりで、国王が息子に命じたのは秘密裏での調査だ。