まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 アーチ形の門をくぐるとすぐに異変が目に飛び込んできた。

 レモン色のドレスを着た女性がナラの木の枝にまたがっている。パトリシアだ。

 斜め後ろでジルフォードが「まさか」と呟いた。

 最初にアドルディオンが思ったのと同じで、賢い近侍も王太子妃が木登りするとは予想外だったようだ。

 急いで駆け寄り、呼びかける。

「なにをしているんだ!」

 木の上で笑みを浮かべていたパトリシアがビクッと肩を揺らして振り向いた。

 オレンジ色の丸い目が大きく見開かれ、たちまち焦りを顔に浮かべる。

 侍女は青ざめてオロオロしながら一歩下がって場所を空け、頭を下げた。

「も、申し訳ございません」

 注意される前に謝ったパトリシアが慌てて木から下りようとし、スカート生地が枝に引っかかってバランスを崩した。

「危ない!」

 反射的に手を伸ばしたが、受け止められるほど近距離には立っていない。

 頭から落下するのではと肝を冷やした直後、彼女は片手で枝にぶら下がり、そこからぴょんと飛び降りて難なく着地を決めた。

 唖然としているアドルディオンと向かい合った妻が、目を泳がせて言い訳する。