まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 温和な性格でいつもゆったりと構えて気負わず、そういう面も気に入っていた。

 余裕綽々で国を守っているわけではないので、つい眉間に皺を寄せてしまう時にはジルフォードを見習い肩の力を抜こうと意識した。

「失礼いたします」

 一礼した近侍にアドルディオンは口角を上げた。

「ちょうどよかった。大橋の改修工事の件でジルの意見が聞きたい」

「緊急でなければ後ほどでもよろしいでしょうか。先にご相談したい話がございます」

 珍しくせっかちな口調なのが気になって、椅子をずらして体ごと近侍の方を向いた。

「なにかあったのか?」

「はい。庭師から従僕へ伝えられ、私のところへ上がってきました情報なのですが」

 パトリシアの話だと聞いて意表を突かれた。

 妻とは結婚してから公務で一度、顔を合わせたきりだ。

 存在を忘れたわけではないが政務に追われ、妻について考える時間はほぼなかった。

 彼女からの要望はなく、離宮の使用人からの苦情もない。

 離宮暮らしになんの問題もないと思っていたのだが、木から落ちた雛鳥を自ら巣に戻そうとしていると聞いて驚いた。

「パトリシアがはしごを?」

「はい。処分すると言った庭師を下がらせた後、ご自分で物置からはしごを出そうとされていたそうです。それを見て庭師が至急、知らせに来ました。私が確認してまいりますか?」

「いや、俺が行く」