まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(ダンスは苦手。村祭りでみんなで輪になって踊るのは楽しいのに。貴族の踊りは決まりごとが多くて神経がすり減りそう)

集中しなければと思っても、暑さで頭がぼんやりしてきた。

暖炉の火は父親の適温に合わせているので、パトリシアもロベルトも弱めてほしいと言い出せない。

するとステップを誤って兄の爪先を踏み、ダンスを中断させてしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

肩をドンと突かれて侮蔑の視線を向けられる。

「口の利き方がなっていない。申し訳ございません、だろ。簡単なワルツのステップも覚えられないとは呆れるな。お前は父上より庶民の血が濃いようだ。田舎に帰ったらどうだ?」

「申し訳ございません。次は気をつけます。どうかお許しください」

深々と頭を下げ反省している態度を示したが、反論したい気持ちが山々だ。

(庶民っぽいのは仕方ないでしょう。去年まで普通の村娘だったんだから。私だって故郷に帰りたいわよ)

戻れないのには事情がある。

母親のクレアが大病を患い、王都の病院に入院して多額の治療費が必要になったためだ。

長年の働きすぎが祟ったのだろう。

十九年ほど前にクレアの妊娠がわかった時、クラム伯爵は用済みとばかりにわずかな金を握らせて実家に帰るよう言い渡した。