まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 使用人が出入りに使っている裏口があり、その横に簡素な両開きの扉がある。そこは様々な作業用具がしまってある物置で、中から木製のはしごを引っ張り出した。

 なよやかな貴族令嬢ならばきっと、ひとりではしごを運べないだろう。

 しかし子供の頃から重労働をしてきたパトリシアには大した重さに感じない。

 襟を広げて雛を胸元に収めるとひょいとはしごを肩に担ぎ、急いで巣のあるナラの木まで戻った。

 はしごを立てかけていると、背後に息を切らせたエイミの声がした。

「な、なにをしているんですか!」

 エイミは王太子妃の身の回りの世話だけでなく、秘書のような役目もしてくれている。

 王太子妃へのご機嫌伺いの手紙や催しへの招待状、贈り物が毎日のように届くので、返事が必要なものとそうでないものをエイミが仕分けしてくれる。パトリシアが返事を書いた手紙を大邸宅内にある郵便物取扱所まで持っていくのも侍女の役目だ。

 今はその帰りと思われた。

「エイミ、おかえりなさい。手紙を届けに行ってくれてありがとう」

「なにをのんきに仰っているんですか。はしごなんか持ち出して、どうするつもりですか?」

 眉根を寄せているエイミにデイドレスの襟を少し広げて胸元を見せ、巣に戻すのだと話した。

「わぁ、可愛い」

 頬を緩めているエイミだが、すぐに厳しい顔つきに戻る。