まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 人の手に捕らわれても怯えることなく、むしろ安心して目を閉じている。安心できる巣の中の兄弟たちの温もりと勘違いしているのかもしれない。

(すごく可愛い。手を貸したからには最後まで。ちゃんとあなたを巣に戻してあげるわ)

 ちょうどそこに庭師の中年男性が通りかかった。

「王太子妃殿下、お散歩でございますか?」

 日に焼けた肌の彼は離宮の専属ではなく、大勢の庭師と一緒に城内全体の庭木を手入れしている。

 数回、挨拶を交わしただけの庭師に対し、申し訳ないと思いつつ助力を求める。

「この子が巣から落ちたんです。なんとかしたいと思いまして。お仕事中にすみませんがお願いできますか?」

「アカゲラですな。かしこまりました。私が処分しておきましょう」

「えっ、処分?」

「キツツキは穴を開けて木を弱らせる厄介者ですから」

「ダ、ダメです。この子は巣に返します。お引き止めしておきながらすみませんが、あなたはお仕事に戻ってください」

 雛を閉じ込めている両手を慌てて庭師から遠ざける。

 彼は不服そうな顔をしているが、王太子妃のすることに文句は言えないようで一礼して立ち去った。

(誰かに頼めば処分されてしまうかもしれないんだ。私がやらなければ)

 四メートルほど上にある巣穴を見上げたパトリシアは決意して頷く。

 はしごが必要なので、急いで離宮の裏手に回った。