まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「違うんです。トマトスープはええと、その、これからお帰りになる叔母様へのお土産です。私の手料理を食べてみたいと仰ってくださったので」

「さようでございましたか。これは失礼いたしました」

 切った食材と調味料を小鍋に入れてかまどの火にかけつつ冷や汗を拭う。

(なんとかごまかせた。出自を隠しているからお母さんが入院しているのも知られてはいけない。私はどれだけ嘘を重ねればいいの? なるべく嘘を減らしたいから、次に叔母様がいらしたら手料理を召し上がっていただこう)

 手際よく完成させたトマトスープを瓶に入れて栓をし、逃げるように調理場を出た。

 螺旋階段を上がり、出かける支度をするため私室へ向かっていると、外から鳥の声がした。

 いつもと違う警戒しているような鳴き方が気になって廊下の窓を覗く。

 するとすぐ近くのナラの梢に、白黒の羽色で後頭部と下腹が赤い中型のキツツキが止まっていた。

(アカゲラの雄だわ。あそこに巣穴がある)

 よく見ると幹に開いた穴から雛が二羽、競うように顔を出していた。

(可愛い。でも二羽だけ? アカゲラは一度に五個くらい卵を産むはずだけど)

 それだけしか孵化しなかったのかと思っていたら、今度は雌が飛んできて幹に止まった。