まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「聞いてくださる? お兄様ったら、わたくしのおしゃべりがうるさくて病気が悪化しそうだから見舞いに来るなと仰ったのよ。お義姉様はわたくしが行くと部屋に引っ込んでしまわれるし、侯爵家の家族もわたくしが話しだすと耳を塞ぐの。失礼ですわ」

 親しい友人たちも最近ではお茶会に呼んでくれず、『会うなら観劇にしましょう』と言われるそうだ。

「静かにしないといけない観劇は好きじゃないのに。わたくしって、そんなにおしゃべり?」

「そ、そんなことないと思います」

 それしか答えようがないが、叔母と会った後に耳がキーンとする時もたしかにあった。



 二時間ほどしゃべり続けた叔母がやっと帰ると、パトリシアは急いで調理場に入った。

(いつもより遅くなっちゃった)

 時刻は十六時。これから母に会いにいくつもりで、差し入れのトマトスープを作ろうとしている。

 栄養管理された病院食が三食出されているが、食欲のない母は半分も食べられない。

 食べ慣れた娘の手料理ならと思い主治医に相談したところ、スープくらいなら病院食の他に食べさせていいとの許可をもらった。

 母のために料理ができるのが嬉しい。

 調理場にはコックがふたりいて、夕食の下ごしらえを始めていた。

「お邪魔してすみません。十分ほど片隅を使わせていただけますか? スープを作りたいんです」