まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 離宮の使用人たちはパトリシアの王太子妃らしくない謙虚な言動にすっかり慣れた様子で、陰でヒソヒソと囁くことはなくなった。

 今ではひとりひとりを名前で呼び、世間話ができるほどには打ち解けられたように思う。

『クラム伯爵家にいた時よりずっと住みよいですね』とエイミも楽しそうだ。

 料理が趣味だと言ってあるので不思議がられずに調理場に出入りすることができ、料理欲求も満たされている。

 それになにより幸せなのが、毎日のように母の見舞いに行けることだ。

 出自を隠さねばならないのでメイド服に着替えて変装し、こっそり城を抜け出していた。

(快適な暮らしをさせてもらっているのに、お忙しい殿下に煩わしい思いをさせたくない。放っておいても文句を言わなそうだというのが、私が妃に選ばれた理由のひとつなのに。叔母様に注意しに行かれてはすごく困る)

 今の生活になんの不満もないと熱心に繰り返したら、感心された。

「健気ですのね。あなたはまるで恋愛物語のヒロインのようよ。わたくしの話もうるさがらずに聞いてくださるし、すっかり気に入りましたわ」

(うるさがられているの?)

 王妹を邪険にできる人とは一体誰だろうと思っていたら、叔母が小鼻を膨らませる。