まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 セレモニーの後に支配人の案内で館内を回り絵画や彫刻を鑑賞したのだが、ひとつひとつの作品に感想を求められてパトリシアは困った。

 淑女教育で美術館でのマナーを習ったけれど、感想の答え方は教わらなかった。

 村娘の頃は小さな教会に飾られていた一枚の宗教画しか見たことがなく、芸術をどのように楽しめばいいのかわからない。

 それでどの作品にも『素敵です』と繰り返し、支配人に残念そうな目を向けられて首をすくめたら、次の作品からはアドルディオンが先に話してくれた。

『背景と手前の人物では絵筆のタッチが違うようだが、後から修正されたものなのか?』

『ご明察の通りでございます。この人物はもとは怒り顔で描かれておりまして、表情を修正したのは晩年と言われております』

『笑顔に描き変えたのはなぜだろうか。この作家はたしか長く独身でいたが、晩年に結婚していたな。それと関係が?』

『はい。おそらくは幸福な結婚が、絵に込めたい想いも変えたのでしょう。絵画研究に人生を捧げております私もそのように推測しております』

 パトリシアが残念がらせたことなど忘れたかのように、支配人は嬉しそうだった。

 以降の作品についてもアドルディオンは支配人と美術談義に花を咲かせており、急に口数が増えたのは無知な妻をフォローするために違いない。

 それにハッと気づいた時、パトリシアの鼓動は高鳴った。