まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 パラパラとページをめくると挿絵があり、それを見た途端にパトリシアは真っ赤になって慌てた。

(これって、男の人と男の人の恋愛物語……)

 その時、ノックの音がしてメイドがワゴンを押して入ってきた。

 過剰なほど肩をびくつかせたパトリシアは急いで本を閉じ、タイトルが見えないように膝の上に置いた。

 お茶と焼き菓子を置いてメイドが退室すると、叔母が声をあげて笑う。

「随分とウブですわね。田舎暮らしが長かったせいかしら?」

「え、ええ」

「アドルディオンとはうまくいってますの? あの子は堅物で浮気の心配はないと思いますけど、仕事にかまけて妻をないがしろにしないか心配ですわ」

「こんな離宮に押し込めて、お可哀想に」と付け足した叔母に、ぎこちない笑みを返す。

(構う暇がないとは言われていたけど、本当に会う機会が少ない)

 アドルディオンと顔を合わせたのは昨年の舞踏会と、結婚式の事前打ち合わせが二回、結婚式当日と夫婦での初公務の計五回だ。

 数えてみると叔母よりも少ないが、どんな顔をしていたかと思うことはない。

(忘れようがないほど美しい人よね。先週の初公務での殿下も素敵だったわ。仲よくなれる気は少しもしないけど)

 初公務は王立美術館での創立百年記念式典だった。