まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 王都の中心部に建つ荘厳な大聖堂で結婚の儀は執り行われ、国中の貴族と社会的に地位の高い市民たち、他国からは要人が招待されて大勢が参列した。

 列席者の顔ぶれに緊張するのはさることながら、王族の婚姻は儀式的意味合いが強いので細かな作法を間違えないようにするのに神経をすり減らした。総刺繍の見事なウエディングドレスを着られたことに心躍らせる暇はない。

 アドルディオンはというと、王家の紋章が入った軍服風の衣装を身にまとい、凛々しく堂々として、パトリシアが作法を間違えそうになるとさりげなくフォローしてくれた。

 高潔で麗しく頼りがいのある彼に、愛のない結婚とわかっていても勝手に胸が高鳴ったのだ。

 二年前から病床に伏しているという五十五歳の国王もこの日は出席し、パトリシアの頭にティアラをかぶせてくれた。

 もとは体格がよかったそうだが、今は痩せて顔の輪郭がはっきりしている。

 髪は四分の一ほどが白くアドルディオンと同じ涼しげな翡翠色の瞳で、病を患っていても威厳がにじみ出ているような方だ。

 国王の斜め後ろに立っている王妃は若かりし頃、絶世の美女と謳われていたそうで、アドルディオンの銀髪と麗しい顔立ちは母親譲りのようである。

 緊張しっぱなしだった結婚式の後は馬車で王都をパレードし、夜は五百人もの招待客との晩餐会が催されたのでヘトヘトになった。