『頑張ったのだな。お前は素晴らしい娘だ。これで私は政府の要職に就けるだろう。我が家の名声は高まり、近づこうとする貴族も増える。今後は有利な条件で交易の取引ができるはずだ。港の使用料などちっぽけな額にすぎん』
思い通り以上の結果を得て高笑いする父に悔しさが湧いたけれど、グッと耐えて母にとってもこの方がいいはずだと自分の心に言い聞かせた。
『お母さんの治療費を、病気が治るまで出してくださいますか?』
改めて約束を求めたら頷いてくれたので安心したが、急に真顔になった父にたじろいだ。
『王太子妃になる以上、なにがあろうともクレアの存在を知られてはならん。出自を偽っていたことが明るみになれば我が家の恥ではすまされず、王族をたばかった罪で伯爵家が取り潰されるだろう。そうなれば治療費どころではないぞ。お前も困るよな?』
脅すような言い方と悪人のような笑い方にゾッとした。一生、嘘をつき続けなければならないのかと思えば胸も苦しくなったが、なにより大切な母のために秘密を守ろうと誓ったのだ。
焼き立てのパンは間違いなく美味しいのに、食べる速度が落ちていく。
(秘密を抱えると心が疲れるわ。隠し事はこれだけじゃないし……)
アドルディオンのもとに嫁ぐことで思いがけず秘密が増えてしまった。
先週の結婚式を思い返す。
思い通り以上の結果を得て高笑いする父に悔しさが湧いたけれど、グッと耐えて母にとってもこの方がいいはずだと自分の心に言い聞かせた。
『お母さんの治療費を、病気が治るまで出してくださいますか?』
改めて約束を求めたら頷いてくれたので安心したが、急に真顔になった父にたじろいだ。
『王太子妃になる以上、なにがあろうともクレアの存在を知られてはならん。出自を偽っていたことが明るみになれば我が家の恥ではすまされず、王族をたばかった罪で伯爵家が取り潰されるだろう。そうなれば治療費どころではないぞ。お前も困るよな?』
脅すような言い方と悪人のような笑い方にゾッとした。一生、嘘をつき続けなければならないのかと思えば胸も苦しくなったが、なにより大切な母のために秘密を守ろうと誓ったのだ。
焼き立てのパンは間違いなく美味しいのに、食べる速度が落ちていく。
(秘密を抱えると心が疲れるわ。隠し事はこれだけじゃないし……)
アドルディオンのもとに嫁ぐことで思いがけず秘密が増えてしまった。
先週の結婚式を思い返す。



