まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 誰かと一緒に会話しながら食べた方がもっと美味しいのに、叶わぬ願いである。

 パンをちぎって口に運びながら思い出しているのは、昨年末の舞踏会後のことだ。

 パトリシアが王太子妃に選ばれたという一報は帰宅より先にクラム伯爵邸に届いており、父が玄関ホールで待ち構えていた。

 娘の顔を見るなり抱きしめてきて、歓喜を隠せぬ興奮した様子だった。

『よくやった。ハイゼン公爵家のエロイーズ嬢で決まりだと皆が思っていた中で、よく殿下の心を動かした。さすがは我が娘だ。しかし一体どうやったのだ? ロベルト、会場でなにがあったのか教えなさい』

 説明を求められたロベルトは困っていた。

 兄が会場に戻ってきたのはラストダンスが終わろうかという頃で、王太子に手を取られて舞う異母妹に愕然としていた。

 帰路の馬車内ではなにかにとりつかれたように『嘘だろ』と繰り返しており、父と違って喜びはない様子。

 パトリシアがどのようにして王太子に気に入られたのかは想像もできず、かといって妹を放置して油を売っていたとも言えないため説明に窮していた。

『積極的に声をかけて、話を弾ませようと努力していたような……?』

 実際とは真逆の返答だったが、父は納得して頷いていた。