村娘の感覚が抜けないので、世話をしてもらうのが申し訳ないと思うからだ。

 最初の頃は掃除や洗濯を手伝おうとして父にきつく叱られ、貴族は家事をしてはいけないと知ったのだ。

(身分差があるのはわかっているけど同じ人間よ。してもらったことに対してお礼を言いたいのに)

 偉そうにする方が妃らしいのかもしれないが、そんな自分を想像すると嫌悪感が湧く。

 すでに精一杯、貴族を演じている状況なので、これ以上は自分らしさを失いたくなかった。

(謙虚な王太子妃がいてもいいじゃない。そういうことにしておこう)

 自己解決して廊下を進み、白い塗装が施された木目のドアの前で足を止めた。

 開けるとそこは食堂で、エイミが忙しそうに働いている。

「パトリシア様、ちょうど朝食の準備が整ったところです。どうぞおかけください」

 輿入れ前にアドルディオンから実家の使用人を連れてきてもいいと許しを得たので、ついてきてほしいとエイミにお願いした。

『もちろんです。これからもお嬢様の侍女として働けるなんて嬉しいです!』

 ふたつ返事で了承し、王城でもそばにいてくれるエイミには心から感謝している。

「ありがとう。わぁ、今朝も美味しそうね」

 ふんわりと焼き上がったオムレツには鮮やかなトマトソースがかかっている。切ったばかりのハムはしっとりと艶やかで、野菜サラダは見るからに瑞々しい。