まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(作り笑顔をキープするのも大変そう。私には無理だわ。それとも生まれながらの貴族は慣れているの?)

王太子に気を取られていたが、「なるほど」と青年貴族の低い声がして意識が隣のふたりに戻る。

「あなたのお気持ちはわかりました。しかしご存じですよね? 王太子妃がハイゼン公爵家のエロイーズ嬢でほぼ決まっていることを」

うつむいてしまった令嬢を見て、王太子に恋をしていると気づいた。

「可哀想に。私が慰めてあげましょう。失恋の傷などすぐに癒えます」

青年貴族が肩を抱こうとすると、彼女が慌てて立ち上がった。

「晩餐会のご招待はお断りいたします。失礼しますわ」

相手の気持ちも考えず強引すぎたようだ。

拒否された青年貴族は不服そうに舌打ちし、ボソッと呟く。

「格下の家柄のくせに生意気な」

(それが本音なの? ふられて可哀想だと思えない)

足早に去っていった令嬢を目で追うと、談笑する集団の前で足を止めていた。

彼女が挨拶したのはエロイーズだ。恋敵に対して嬉しそうな顔で話しており、純情そうに見えた彼女も貴族らしく本音を隠せるらしい。

エロイーズを囲んでいる貴族は二十人ほどいて、そわそわと落ち着かない様子の女性やしきりに周囲を気にしている男性が気になった。

(あっ、そうか。王太子妃の発表がもうすぐなんだ)

それならデザートを食べてしまわなければと急いで席を立つ。