まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「エロイーズさんは私たちに損な役回りをさせて、いつも自分だけ美味しいところを持っていくのよ。謙虚なふりをしてしたたかなところが嫌いだわ」

「王太子妃の発表前に帰ろうかしら。祝福する気になれないもの」

(最初は仲がよさそうだったのに……)

パトリシアが生まれ育った村は、素朴で裏表のない性格の者ばかりだった。

エロイーズがいなくなった途端に悪く言うふたりに眉根を寄せ、貴族の付き合いは難しそうだと感じていた。

夜が更ける中、入れ代わり立ち代わりで優雅なダンスが続いている。

踊り疲れた客たちが食事をしに来るので、テーブルの周囲には人が増えていた。

女性の姿もちらほら見かけるようになり、今はもうパトリシアに奇異な目は向けられていない。

誰に話しかけられることもなく心を楽にして食事ができるけれど、料理を口に運ぶフォークの動きは遅くなっていた。

(お腹が苦しい。でもまだレシピが気になる料理がある。食べないと)

料理を作って人に振る舞うのが好きなだけで大食ではない。この機会を逃せば二度と王城の料理を味わえないと思うため、無理して食べ続けていた。

(うっぷ。デザートは少し休憩してからじゃないと入らないわ。終了までどのくらい時間があるの?)

招待状には開催時刻は記されていたが、終了は書かれていなかった。

舞踏会が初体験のパトリシアにはいつ終わるのかわからない。