まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

かばってくれたようにも思えたが、それにしてはこちらに向けられた眼差しに優しさが感じられない。

周囲がなにごとかとざわざわしており、舞踏会の主催者として早くこの場を収めたかったのかもしれない。

パトリシアを非難した令嬢たちは不満そうに顔を見合わせている。

「アドルディオン殿下」

鈴のようにきれいな声をかけたのはエロイーズだ。いつの間にかテーブルを回ってこちら側に来ており、振り向いた王太子に微笑みかける。

ファーストネームで呼ぶことを許されている女性はきっと少なく、それほどまでに親睦が深いということだ。

「皆さまがなにに遠慮なさっているのかわかりませんけれど、殿下の他にわたくしをお誘いくださる殿方がおりませんの。壁の花でいるのにそろそろ飽きていたところですわ」

「ではもう一曲、私と踊っていただけますか?」

「喜んで」

上品な笑みを浮かべたエロイーズが王太子に腕を絡ませた。

ダンスの輪に戻ろうとしているふたりは美しく、まるで童話の挿絵のようだ。

(お似合いのおふたりね。私がダンスを断って騒ぎにならなくてよかった)

ホッとしているパトリシアと違い、残されたふたりの令嬢はヒソヒソと陰口を叩く。

「あんな言い方ずるいわ。殿下は誘わないわけにいかないじゃない」