まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

貴族女性としての自分の価値が上がり、娘を取引材料としか考えていない父親を喜ばせてしまうからだ。

非情な父に対する悔しさがまた込み上げてきて、差し出された手を取らずに頭を下げる。

「お誘いくださいましてありがとうございます。ですが私はダンスがとても下手なんです。王太子殿下のおみ足を踏んでしまうと申し訳ないので、こちらで食事しております。どうぞお気遣いなく」

別世界を生きているような神々しい王太子と平気で話しているわけではなく、かなり緊張している。

ぎくしゃくした動きで顔を上げると、彼が目を見開いていた。

誘いを断る女性がいると思わなかったのかもしれないが、すぐに口元に笑みを取り戻し、軽く頷いた。

気分を害した様子ではなかったのに、エロイーズ以外の令嬢たちが声高に口を挟む。

「あなた、王太子殿下になんということを仰るの。失礼にもほどがありますわよ!」

「いくら田舎暮らしが長いからといって、許されませんわ。無礼をお謝りなさい!」

「えっ……」

(ダンスの誘いを断ってはいけなかったの?)

一応貴族に見えるレベルには礼儀作法を学んだつもりでいたが、実践の場に出ないとわからないこともある。

慌てて謝ろうとしたパトリシアより先に王太子が口を開く。

「謝罪はいらない。私の誘いだからといって無理に応じる必要はないのだ」